大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成2年(ネ)893号 判決

控訴人 近畿日本ツーリスト株式会社

代表取締役 児島英一

控訴人 田辺裕

控訴人ら訴訟代理人弁護士 原山庫佳

同 薦田哲

同復代理人弁護士 高橋裕次郎

被控訴人 甲野一郎

訴訟代理人弁護士 岡田宰

主文

一  原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

二  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立て

一  控訴人ら

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  被控訴人の請求原因

1  控訴人近畿日本ツーリスト株式会社(以下「控訴会社」という。)は、旅行代理店業等を営む会社であり、控訴人田辺は、同会社平塚支店の従業員である。

2  被控訴人は、昭和六三年一一月初めころ、控訴会社平塚支店が募集した「スペシャルハワイ六日間の旅」(旅行期間同年一二月二五日から同月三〇日、旅行代金一人九万八〇〇〇円、募集人員四〇名)に参加申込みをした。

3  観光目的で我が国からアメリカ合衆国へ旅行する場合については、同年一二月一五日から入国査証が免除されることになっていたが、控訴人田辺が、同年一一月中旬、被控訴人に対し、「一二月一五日以降も大韓航空機を利用する場合には入国査証が必要である。」と告げたため、被控訴人は、控訴会社平塚支店に米国入国査証申請手続(申請書の作成及び査証取得手続の代行、以下「本件査証申請」という。)を委任した。

4  控訴人田辺は、同年一一月二一日、右申請手続のため、被控訴人に対し、「米国査証申請のための質問書」(以下「質問書」という。)を交付し、被控訴人は、そのころこれに必要事項を記入して右平塚支店に提出した。

5  同年一二月五日、控訴人田辺から被控訴人に対し、「パスポートを持参し、一二月七日米国大使館に出頭するように。」との指示があったので、被控訴人が一二月七日に米国大使館に出頭したところ、一般と異なる入国審査申請カウンターに呼ばれ、衆人環視の中で、大使館の担当者から突然両手を見せるよう指示され、被控訴人が両手を前に出して見せたところ、被控訴人の右手親指欠損の原因について質問を受け、被控訴人が「仕事で落とした。」と答えると、右担当者から「日本にはいろいろな仕事がありますからね。」と言われ、本件査証申請は却下された。

6  その際、米国大使館の担当者の手元に被控訴人が控訴会社平塚支店に提出した前記質問書が置かれていたが、被控訴人がこれをカウンター越しに一見すると、被控訴人が記入した一部に次のような書換えがなされていることが判明した。すなわち、質問事項一八「「特に目立つ特徴(目に見える傷痕、ホクロ等)」の欄に被控訴人が「ない」旨記入していたにもかかわらず、「別紙のとおり」と書き換えられ、「親指欠損、暴力団関係者」等と記載された別紙が添付されていた。右書換えは、控訴人田辺が行ったものである。

7  その後、被控訴人が控訴人田辺に対し、何故右のような書換えをしたのかについて追及したところ、同控訴人は、右書換えをしたことを自認し、その理由については沈黙していた。

8  控訴人田辺の右行為は、被控訴人に無断で質問書に右内容の書換えをした点において、被控訴人の名誉を毀損する違法な行為であるが、被控訴人の右手親指欠損は真実であるので、右書換えの内容が真実に合致するから、右行為が名誉の毀損には該当しないとしても、それは、被控訴人の人格権を侵害する違法な行為であるから、同控訴人は、これにより被控訴人が受けた後記損害を賠償する責任がある。

控訴会社は、本件査証申請の委任を受けた以上、被控訴人に対し、善良な管理者の注意義務をもって、右申請が許可されるべく手続を遂行すべき義務があるのに、控訴人田辺の右行為を漫然と看過し、右義務の履行を全うしなかった債務不履行の責任があり、また、控訴人田辺の使用者として、同控訴人の義務の執行についての前記違法な行為につき使用者責任があるから、被控訴人が受けた後記損害を賠償する責任がある。

9  被控訴人は、控訴人らの前記行為によって、質問書に仕事上の事故による右手親指欠損を、あたかも暴力団稼業における「指詰め」のごとく受け取られる記載をされたうえ、これを米国大使館に提出され、さらには、これによってその事実を衆人環視の入国査証カウンターで指摘されたのであって、これにより著しい精神的苦痛を被った。これを慰謝するには金一〇〇万円が相当である。

よって被控訴人は、控訴人らに対し、各自金一〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の後である平成元年四月二日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する控訴人らの認否

1  請求原因第1、第2項の各事実は認める。

2  同第3項の事実は認める。但し、昭和六三年一一月中旬の時点においては、大韓航空機を利用する場合に入国査証が免除されることは、控訴会社の平塚支店は明確には把握していなかった。

3  同第4項のうち、質問書を交付した日は否認し、その余の事実は認める。質問書を被控訴人に交付したのは、被控訴人主張の日より一週間位前である。

4  同第5項のうち、控訴人田辺が被控訴人主張の日にその主張の指示をしたこと、本件査証申請が却下されたことは認め、その余の事実は否認する。

5  同第6項のうち、質問事項一八の欄に被控訴人が「ない」と記入したこと及び控訴人田辺がその書換えをしたことは否認し、その余の事実は不知。被控訴人が右の欄を何故か未記入のままにしていたので、控訴人田辺が後記のとおり補充したものである。

6  同第7項の事実は否認する。被控訴人は、昭和六三年一二月八日、有限会社山下企画に控訴人田辺を呼び出したうえ、脅迫的に自認を強要した。

7  同第8、第9はいずれも争う。

8  (控訴人らの反論)

(1)  米国入国査証申請に際し、虚偽の申告をすることはアメリカ合衆国の法律に違反することになり、その申請手続において質問書の全ての質問事項に正直に答えているのでないと虚偽申請となる。その場合に申請者が仮に査証を取得して入国しても、後にこれが発覚すれば不正入国となり、強制送還されるか刑事罰(罰金または禁固刑)を科せられることになる。

(2)  被控訴人は、控訴会社平塚支店の取り扱った昭和六三年七月九日のホリデー米国西海岸旅行(七日間)に参加申込みをし、同年五月、担当の控訴人田辺に対し米国入国査証申請手続を依頼したことがあったが、同控訴人から前記(1) の趣旨の説明を受けたところ、右申請を取り止めた。その際、被控訴人が記入し提出した右申請のための質問書の質問事項一八の欄には「右手親指欠損」と記入されていた。

本件の場合においても、被控訴人は、質問書の質問事項(三六項目)の全てについて、もれなく、かつ、正直に記入する義務があったのであり、「右手親指欠損」があるのにこれを記入しないと虚偽申請となる。

(3)  しかるに、被控訴人が、昭和六三年一一月二一日、控訴人田辺に提出した質問書には、質問事項一八と同二一(「あなたの米国への査証はこれまでに取り消されたことがありますか?」)の欄には記入がなく、同二五(「現在の職業(職種)」)の欄には「代表取締役」と記入されているのみで、職業の記載がなされていなかった。

そのため、右のような未記入部分があるまま申請しても受理されないので、控訴人田辺が事前に被控訴人から確認していた事実に基づき、同一八の欄に「右手親指欠損」と補充記入し、同二一の欄には「いいえ」に丸を付し、控訴会社の東京海外オペレーションセンターが控訴人田辺に問い合わせて確認したうえ同二五の欄に「不動産業」と追加記入したうえ、同センターから本件査証申請がなされたのである。控訴人らは、被控訴人が主張するように質問事項一八の欄に「別紙のとおり」と記載して「親指欠損、暴力団関係者」等と記載した別紙を添付したりしていない。

(4)  以上のとおり、控訴人田辺がしたのは右の補充記入のみであったから、被控訴人の名誉を棄損したり人格を侵害する行為はなかったというべきであり、「右手親指欠損」と補充記入したこと自体についても、本件査証申請手続上質問書にはアメリカ合衆国の法律に基づき真実に則して正直に記載しなければならず、虚偽記入が許されないのであるから、被控訴人の右手親指欠損の事実を真実として補充記入したことに何ら違法な点はない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因第1ないし第3項の各事実は当事者間に争いがない(但し、昭和六三年一二月一五日以降大韓航空機を利用する場合に入国査証が免除されることが、同年一一月中旬の時点で控訴会社平塚支店に明確に把握されていたか否かはしばらく置く。)。

同第4項の事実は、控訴人田辺が被控訴人に対し質問書を交付した日の点を除き当事者に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、右交付の時期は昭和六三年一一月一〇日前後ころと認められる。そして、同年一二月五日、控訴人田辺が被控訴人に対し、「パスポートを持参し、一二月七日に米国大使館に出頭するように。」と指示したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、被控訴人が一二月七日米国大使館に出頭したところ、一般と異なる入国審査申請カウンターに呼ばれ、大使館の担当者から両手を見せるよう指示され、被控訴人が両手を前に出してみせたところ、被控訴人の右手親指欠損の原因について質問を受け、被控訴人が「仕事で失いました。」と答えると、右担当者から「日本人は仕事といっても労働でないもので落とすこともありますね。今はビザを申請する必要はないのですが、入国できるか否かはハワイの入国管理局が決めます。しかし、帰される可能性が強いですね。」と言われたことが認められる。そして、本件査証申請が却下されたことは当事者間に争いがない。

ところで、〈証拠〉中には、次のような部分がある。すなわち、「被控訴人と米国大使館の担当者との右のやりとりがなされていた際に、被控訴人がカウンター越しに右担当者の手許を一見すると、質問書のほかに控訴会社作成の報告書が置いてあった。そして、被控訴人が質問書の質問事項一八「特に目立つ特徴(目に見える傷痕、ホクロ等)」の欄に「ない」旨記入していたにもかかわらず、右報告書には「暴力団関係者」等と記載されていた。そこで、被控訴人が翌日控訴人田辺に対して右報告書について追及したところ、同控訴人は、自分が右報告書の内容を記載した文書を作成して控訴会社の東京海外オペレーションセンターに送付し、同センターがそれに基づき右報告書を作成して質問書に添付したものであることを自認したが、右文書を作成した理由については沈黙するのみであった。控訴会社が右質問書の控えであるとして提出した乙第一号証は、控訴会社平塚支店の取り扱った昭和六三年七月九日のホリデー米国西海岸(七日間)旅行に被控訴人が参加申込みをした際に被控訴人が記入して同支店に提出した質問書の控えであって、本件査証申請のための質問書の控えではないうえ、同号証のうち、被控訴人が記入すべき欄のうち質問事項一八の「特に目立つ特徴(目に見える傷痕、ホクロ等)」の欄の「ある」、「右手親指欠損」の赤字の記載、同二〇の欄の「一一/二二支店確認」の赤字の記載、同二五の「現在の職業(職種)」の欄の「不動産業」の赤字の記載のほか、同二六の「米国滞在中のあなたの住所」の欄、同二八の「米国への到着予定日」の欄、同二九の「米国での予定滞在期間」の欄、同三七の欄の年月日の記載、末尾から二番目の欄のツアー名「平塚ハワイツアー」の記載部分は、被控訴人が記入したものではない。」というのである。また、〈証拠〉中にも、同年一二月八日、控訴人田辺が被控訴人の追及に対し、本件査証申請に関する書類に被控訴人の右手親指欠損の事実と被控訴人が暴力団関係者である旨の記載をしたことを自認したとの部分が存在する。

しかしながら、乙第一号証が、控訴会社平塚支店の取り扱った昭和六三年七月九日のホリデー米国西海岸(七日間)旅行の際に被控訴人が記入した質問書の控えではなく、本件査証申請のための質問書の控えであることは、その作成日付及び〈証拠〉により明らかである(被控訴人は、被控訴人が昭和六三年一〇月三一日限り有限会社山下企画の代表取締役を辞任しているので、「代表取締役」と自分が書き込むことはありえない旨供述するが、右供述によっては乙第一号証がその辞任以前に作成されたものと断定することはできない。)。そして、被控訴人が自分が記入したものではないと供述する右各記載部分は、以下に認定する経緯で控訴人田辺らによって記載されたことが認められ、また、「暴力団関係者」等の記載のある文書を送付したことを控訴人田辺が自認した旨の右各供述部分は、以下に認定する経緯と〈証拠〉に照らしにわかに採用することができない。〈証拠〉を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(1)  昭和六三年当時アメリカ合衆国に観光目的で旅行する場合には、原則として米国の入国査証を受けなければならず、その申請をする者は、三六項目にわたる質問事項の記載された質問書に自ら漏れなく正直に答えを記入することを義務づけられていた(虚偽記載申請は同国の法律違反となり、虚偽記載したことが入国後発覚すれば強制送還されるか刑事罰を科せられる。)。そこで、控訴会社は右申請の代行を委任されたときは、社団法人日本旅行業協会関西支部作成の「在大阪、神戸米国総領事館監修、米国査証マニアル」に従い、委任者に右質問書の趣旨を説明したうえ、これを交付して、本人に黒ボールペンで答えを記入させ、署名捺印してもらうこと、記入漏れがあった場合には、旅行業者は、事前に本人に確認したうえ赤ボールペンで追加記入し、確認した日付け、氏名を明記すること、特に質問事項一八の「特に目立つ特徴(目に見える傷痕、ホクロ等)」の欄については、顔の部分にある傷痕やホクロ、イレズミ、指の欠損等のある場合には、必ず記入することとしていた。

(2)  本件査証申請にあたり、昭和六三年一一月二一日に被控訴人が控訴会社の平塚支店に提出した質問書には一部に記入漏れがあった。すなわち、質問事項一八と二一(「あなたの米国への査証はこれまでに取り消されたことがありますか?」)の欄、同二六(「米国滞在中のあなたの住所」)の欄、同二八(「米国への到着予定日」)の欄、同二九(「米国での予定滞在期間」)の欄には何らの記入もなく、同二五(「現在の職業(職種)」)の欄には「代表取締役」とのみ記載されていた。

(3)  そこで、控訴人田辺は、赤のボールペンで質問事項一八の欄に「特に目立つ特徴(目に見える傷痕、ホクロ等」)が「ある」の方にチェックをしたうえ、「右手親指欠損」と記入し、同二一の欄には「いいえ」に丸を付し、同二六、同二八、同二九の各欄に黒のボールペンでそれぞれ旅行日程で明らかな事項を記載して、これを翌日控訴会社の東京海外オペレーションセンターに送付した。同センターは、控訴人田辺に電話で同二五の欄の職業を確認したうえ、同欄に「不動産業」と追加記入し、同月二五日、アメリカ大使館に対し、本件査証申請をし、同申請は、同年一二月二日同大使館に受理された。

(4)  被控訴人は、自動車修理工をしていた一五歳の時に、電動グラインダーの操作を誤って右手親指を欠損したのであるが、質問事項一八の欄には自らの判断によりその事実を記入しなかった。他方、控訴人田辺は、右欠損の事実を客観的に目に見える事実として知っていたことから前記のとおり補充記入したものであり、その他の前記認定の補充記入についても旅行日程等から客観的に明らかな事項や昭和六三年七月九日の前記旅行の際に提出された質問書により知っていた事項であったため、いずれも被控訴人に事前に確認しないまま補充記入をした(なお、前記旅行の際に提出された質問書の質問事項一八の欄に、被控訴人が自ら「右手親指欠損」の事実を記入したか否かは本件証拠上あきらかではない。)。

(5)  なお、被控訴人が、アメリカ大使館に出頭して担当者とやりとりした申請窓口の構造や他の申請窓口との位置関係は、申請者は、カウンター越しにガラスの板をはさみ、ガラス板の顔の位置に円形状に小さな穴があけられたところを通して担当者と話をする構造となっており、各申請窓口の間隔は二メートルほどあり、各窓口の後続の申請者は、やりとりをしている申請者と二メートルほど離れた位置から後に並んでいるため、申請窓口でやりとりしている会話の内容や関係書類の内容等は、他の申請者には通常は知られることはない状況にあった。

以上認定した各事実に〈証拠〉並びに被控訴人が暴力団関係者であることについても、また控訴人田辺がそのような認識を持っていたことについてもこれを認めるに足りる証拠がないことを併せ考えると、〈証拠〉中報告書に関する部分はにわかに信用し難く、これらによって、質問書の質問事項一八の欄に関して、被控訴人が「ない」と記入していたのに、控訴会社においてこれを「別紙のとおり」と書き換えたうえ、「親指欠損、暴力団関係者」等と記載した別紙を添付した事実を認めることは到底できない。そして、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

そこで、控訴人田辺が、被控訴人に連絡をしないで右質問事項一八の欄に前記認定の補充記入をした点について検討する。

被控訴人の右手親指欠損は客観的な事実であり、被控訴人は、右質問事項一八の欄にその事実を自ら正直に記入しなければならないことを知りながら、その記入をしなかったものである。この場合に、控訴会社としては、被控訴人が本件査証申請を取り止めるのでないかぎり、委任事務の処理として事実に即した補充記入をするのほかなく、右手親指欠損の客観的事実を知っていた控訴人田辺がその補充記入をしたのは、査証の制度の趣旨に沿った妥当な処理であったということができる。もっとも、控訴人田辺は、補充記入をするに際して事前に被控訴人に確認することをしなかったが、右欠損は客観的な真実であるから、その事実の存否について確認することに実質上の意味がないことは明らかである。むしろ、右欠損が身体に関する事柄であるだけに、控訴人田辺としては、被控訴人がその記載をすることを甘んじてもなお申請を維持するのか、あるいはそこまでするよりはむしろ申請を撤回するのかについての選択がありうることに配慮して、被控訴人の意向を打診することが委任の趣旨に沿った扱いではなかったのか、が問われる余地がある。しかし、被控訴人が質問事項一八の趣旨を知りながら質問書を控訴人田辺に託したこと、質問書の内容が一般に公表されるおそれはなく、米国大使館における面接の機会にそれを第三者に気付かれるおそれもほとんどないこと及び前認定の経緯からすると右欠損を記載した場合における米国側の対応は予測し難く、申請の却下が避けられないとは必ずしもいえない状況にあったことを考慮すると、右の打診をしないで右欠損の記載をしたことをもって委任の趣旨に反する違法な行為であったということは困難である。

また、被控訴人が参加の申し込みをした旅行については、査証の免除措置の適用が受けられたが、〈証拠〉によれば、控訴会社においては、右旅行が免除措置が適用される直後に実施されることから、旅行者を安心させるためと査証があったほうが米国への入国手続きが円滑に済む可能性があることを考慮して、その当時その適用を受けられる旅行者一般に査証の申請を勧めていたことが認められ、このような措置を採ったことをもって違法な行為であったということはできないから、控訴会社が被控訴人の旅行につき査証の申請手続きを代行したこと自体をもって被控訴人に対する違法な行為であったということはできない。

以上のとおりであるから、本件査証申請の手続きに関して控訴人らに違法な行為があったということはできない。

二  そうとすれば、その余の点を検討するまでもなく、被控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、原判決は被控訴人の請求を認容した限度で取消を免れないから、原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消して被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橘勝治 裁判官 小川克介 裁判官 南敏文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例